人を「行きたくなる」で動かす、行動変容の定量検証
背景:嵐山観光の一極集中という課題
京都市の嵯峨嵐山エリアでは、インバウンド観光客の増加に伴い、渡月橋周辺や竹林エリアへの観光客の集中がオーバーツーリズムとして深刻化し課題となっていました。
その結果、
- ◼︎歩行困難なほどの混雑
- ◼︎ゴミのポイ捨て
- ◼︎観光客の住宅街への侵入
といった課題が発生し、観光客と地域住民との摩擦も生じていました。
京都市はこの課題に対し、南側の主要観光地に集中する人流を分散させるため、北側の嵯峨エリアへ観光客を誘導する施策を検討しました。
アプローチ:「行きたくなる」を生むマップ設計
本事業で京都市は、目的地中心のナビゲーションとは異なり、
マップデザインと体験設計によって行動を促すアプローチを採用しました。
Strolyのイラストデジタルマップを活用し、嵯峨嵐山エリア全体を一体の観光エリアとして再設計しました。
主な設計要素は以下の通りです。
▶︎北部エリアの魅力の可視化
北部に点在する寺院や自然、静かな京都らしい時間を過ごせる場所を視覚的に強調しました。
イラスト地図の自由な縮尺表現とGPS連動により、「遠い場所を近く感じる」体験を生み出します。
▶︎混雑の可視化と分散誘導
ライブ映像を配信し、混雑している場所だけでなく「今、空いている場所」を伝えることで、人流の自然な分散を促しました。
▶︎動線設計による住民との共存
観光に適した動線のみを描画し、住宅街の細道はあえて表示しない設計としました。
これにより観光客と地域住民の動線を自然に分離します。
▶︎安心して回遊できる環境づくり
トイレやゴミ箱などの公共インフラ情報をマップ上に表示し、観光客の安心感を高めました。

利用状況とユーザー評価
2025年秋の紅葉シーズンには、25,000人以上が「嵯峨嵐山 周遊ガイド」にアクセスしました。
そのうち37.4%が海外ユーザーでした。
- ◼︎英語:21.6%
- ◼︎中国語:6.2%
- ◼︎韓国語:1.8%
- ◼︎スペイン語:1.6%
- ◼︎イタリア語:1.1%
イラストマップによるノンバーバルな情報設計が、言語に依存しない誘導として機能していることが確認されました。
アンケートでは次のような声が寄せられました。
- ◼︎混雑した嵐山で偶然サービスを知った
- ◼︎癒される場所が見つかった
- ◼︎今まで知らなかった京都らしいエリアを観光できた
- ◼︎落ち着いた時間を過ごせた
「見る楽しさ」や「回遊のワクワク感」といった体験価値も高く評価されました。
人流データによる効果検証
Stroly上に蓄積された約5,000人分の利用ログを分析した結果、観光客が南部から北部の嵯峨エリアへ移動している傾向が確認されました。


人流データ”一般的な観光客”との比較
さらに効果を定量的に検証するため、ジオテクノロジーズ社が提供する一般観光客の人流データと比較分析を行いました。外部データでは観光客を「1ヶ月以内に24時間未満滞在した歩行者」と定義し、近隣住民のログを除外しています。
Stroly側は「嵯峨嵐山 周遊ガイド」の利用ログを使用しています。
北側エリアへの誘導効果
北部エリアへの進入率は次の通りでした。
- ◼︎一般観光客:19.3%
- ◼︎Stroly利用者:32.5%
- ◼︎スタンプラリー実施時:100%
イラストマップによる体験設計とスタンプラリーの組み合わせが、回遊範囲を拡張する効果を示しました。

住宅街侵入率の低減
住宅街への侵入率は次の通りでした。
- ◼︎一般観光客:15.2%
- ◼︎Stroly利用者(通常時):2.3%
- ◼︎Stroly利用者(スタンプラリー時):3.0%
住宅街を描かない情報設計が、自然な動線分離を生んだと考えられます。


駅起点の回遊行動の変化
JR嵯峨嵐山駅を起点とした分析では、一般観光客は駅南側に滞留する傾向が見られる一方、Stroly利用者は線路を越えて北・西方向へ回遊していることが確認されました。
成果と今後の展開
本事業の結果、イラストデジタルマップによるデジタル介入は、
- ◼︎分散観光の推進
- ◼︎観光客と住民の共存
- ◼︎観光満足度の向上
を同時に実現できる可能性を示しました。
さらに、
- ◼︎警備や規制コストに依存しない観光施策
- ◼︎地域特性に応じた柔軟な設計
- ◼︎インバウンドにも伝わるノンバーバル誘導
- ◼︎施策改善に活用できる人流データ取得
といった価値を提供できます。
Strolyの特許取得済みプラットフォームにより、地域ごとの課題に応じた観光体験設計を全国へ展開することが可能です。